釣り

行きたいなあ。
そうだなあ、まだ日も出てないような早朝に行きたいなあ。
夏だってのに、早朝は少しひんやりするんです。
はい、着きました。
池一面、朝靄がかかってなんだか幻想的です。
おや、どこからか音楽が流れてきました。
これはフィッシュマンズですね。
いやいや、魚釣りだけにフィッシュマンズだなんて、そんな浅はかではありません。
フィッシュマンズには朝靄が似合うようなそんな曲がいくつかあるんです。
どっちかといえば都会的な雰囲気なんですが、こんな場所で流れるフィッシュマンズも素敵でしょう。
遠くで鳥や虫達の声が聞こえます。
その声は安らぎを与えてくれます。
ちなみに、この理想世界では虫は存在しません。
虫達は誰もうかがい知れぬどこか遠くの世界で、人々を癒すためだけにその声を出し続けます。
フィッシングチェアに座り、竿を構えます。
なかなか釣れません。
ルアーに少しアクションをかけます。
それでも釣れません。
でもいいんです。
普段とは質量が違う、特殊なゆっくりした時間を心行くまで堪能するのです。
ちなみに、この理想世界ではいくら長い間椅子に座っていても尻や腰を痛める事はありません。
やがて朝靄は晴れ、ようやく世界は目を覚まし、人々がここへやってきます。
鳥や虫達の声は消え、代わって人々のざわめきが聞こえます。
それはとても穏やかで平和な心温まるざわめきです。
人と日の暖かさを背中に感じ、僕はこの貴重な時間に更に没頭する。
という夢を見たかもしれない。