ある晴れた土曜日、

僕は東京行きの新幹線に乗っていた。それはまるで気まぐれで出かけたようなものだった。なんの目的も告げずにただ「東京に行ってくる」と言っただけだった。でも実際は目的はあった。しかしその目的を告げるには少々気が引けていた。その前日の晩にテレビ番組で流れていた曲を歌っている歌手がどうしても思い浮かばず、それについて何度も考えを巡らせている時にふと昔の友人の顔がそこに割り込んできた。歌手とは無関係で、その友人の登場はまさに気まぐれだった。そして同時に僕の頭の中に現れたのが、その友人と交わしたある約束だった。そんなもののために僕は急に東京へ向かう事になったのだ。目的なんて告げようがない。
東京に向かうにあたって、僕はひとつの小箱を持っていかなければならなかった。それは10センチ四方の立方体で、薄茶色の幾分色褪せたような気がするが、そうでない気もする、分厚い紙でできた小箱だ。その小箱は約束の一部だった。どんな意味があるのかはわからないが、東京で会う時にこの小箱をもってくるようにその友人に渡されていた。元々友人が持っていたものを一時僕が預かり、また返すというどうにも変な話だった。しかし、もしかすると、これは再会を意識しての事なのかもしれない。僕がこの小箱を持っている限り、確かにそこには繋がりのようなものがある。そんな事も考えた。
小箱を受け取った時、返すまでは決して中身を見るなと友人は僕に釘を刺した。もちろん、と僕は答えた。しかし僕にはそんな自信はなかった。どう見てもこの小箱には封らしきものがされておらず、誤って落としでもすれば簡単に蓋が外れてしまいそうだった。そのために、持ち帰る時には両手に大事に抱えなければいけなかった。そのため、たとえ僕が何かをしなくても、いずれ勝手にでも開く蓋だろうと思っていた。しかし結局の所、その時が来るまで蓋が開かれる事はなかった。というのも、僕はその小箱を持ち帰ってどこかに置くと、しばらくしてその存在自体を忘れてしまっていた。それはまるでその小箱が始めからこの世界のどこにも存在してないかのような忘れ方だった。だから友人の事を思い出したその日に、引越しやら何やらでどこかに無くしてしまったと考えていたその小箱を簡単に見つけた時には、僕は運命的なものを感じてしまっていた。
そんなわけで、僕は東京へ向かう事を決意した。
東京へ向かうと決めてから、僕はとりあえず迷っていた。この小箱をどうやって運ぶかだ。何せ強い風が吹くだけで開きそうな小箱だ。鞄に入れ、少しでも動けば蓋は開いてしまうだろう。紐や輪ゴムなどで縛っておいてもいいと思ったが、ちょうどよさそうなものがなく、時間的な余裕もなかった。結局、昔と同じように両手で大事に抱えて行く事にした。それは傍から見ると多少異様ではあったが、それが一番確実な方法ではあった。この時の僕は、ここまできたのならば、どうせならば最後まで小箱の蓋を開けないようにしたいと考えていた。
僕は鞄を肩から掛け、目を外さないよう注意しながら両手で小箱を大事に抱え、東京行きの新幹線に乗り込んだ。
東京までの道のりで、僕は3人の奇妙な人達と出会った。
一人は占い師の女。もう一人は元自殺志願者の男。そして大事に箱を抱えたニューハーフだ。
これは、そんな奇妙な3人の話であり、友人に再会するまでただひたすら小箱を守る冒険のような話でもある。
つづく。








なわけないやーん!