ラッキー買った。

作者の村上かつらさんはここ数年で一番好きなマンガ家です。
代表作にサユリ1号やCUEなどがあるんですけど、個人的にはこの人の場合は長期(というほど長くないけど)連載作よりも短編の方がキレがあるというか、おもしろいです。
つっても長編がつまらないのかというとそうでもなくて、ミシュラン的にいうと☆3つと2.5くらいの差です。
まあ、他の作品はいつか紹介するとして、今回は「ラッキー」です。
主人公は母親を病気で亡くし父親と2人で暮らしている少年、祐太。小5。
ある日、押入れの中から長いこと放置された犬ロボ、ラッキーを祐太が発見したところから話ははじまります。
ラッキーは祐太の母親がなかなか子宝に恵まれない時に父親が連れてきた犬ロボで、祐太が誕生するまで家族としての時間を過ごしていました。
犬ロボは人とコミュニケーションがとれる犬型ロボットで、目の部分がディスプレイになっていて、そこに5文字までの言葉を表示する事で会話ができます。
そして、もう一つの機能が、主人の模倣です。
生活の中で、主人の行動や口癖などを学習していくというものです。
ラッキーの元々の主人は亡くなった母親。
母親の思い出がたくさん詰まっているラッキーとの毎日がはじまる。といった話。
エピソードを少し紹介します。
4年生の頃一緒に虫を捕って遊んでいた親友の成瀬君と、5年生になってからは別々のクラスになってしまいました。
そして、久々に成瀬君とギンヤンマを捕りに行く事になったんですけど、なんだか以前の彼とは様子が変わってます。
どうやら、親の教育方針で私立中学を受験する事になったようで、そのうちに、人を成績だけで区別するようになってしまいました。
いつのまにか、街の中や成瀬君の心にいたギンヤンマはいなくなってました。
成瀬君は祐太と友達であり続けるために勉強を強制させます。
辛いながらも勉強を続けていた祐太に、ある日ラッキーが5文字の言葉でこう訊ねてきます。
「たのしい?」
その言葉に解放された祐太は成瀬君に「勉強」はもういいと告げます。
成瀬君はもう、きっと祐太の家に来ることはないでしょう。
生きていてすぐそばにいる相手でも、遠くの存在になってしまう事があると、祐太は知りました。
嘆く祐太に対し父親は「自分がさみしいからって、変わってしまった人を責めてはいけない」と教えます。
そして、「たのしい?」と表示されたままのラッキーを見て、楽しかった成瀬君との出来事を思い出し、心の中で呟きます。
「心が離れてもずっと友達だよ」
そんな祐太の頭上、成瀬君の頭上に1匹のギンヤンマが飛んでいきました。
といった感じで、祐太の純粋な優しさに心打たれるエピソードの1つです。
まあ、成瀬君も結構かわいそうで、親が「淘汰と棲み分けは、はじまっているんだ!」なんて教え続けてるもんだから、変わってしまったわけで、本当なら純粋に虫が好きで優しい子だったんですよ。
それをわかってるからこそ、友達であり続けると言ったんだろうと思います。
小5の頃の自分を考えると、そんな事を考えるなんて無理だろうし、今でも他人のことをそんなに思いやれるものか怪しいところです。
それを、小5で知る事ができた祐太の成長はすごく大きなものです。
ラッキーの5文字しかしゃべれないって機能がとても絶妙で、本当に必要な言葉というのは、たった5文字で単純なものでも伝わるんだと感心させられました。
誰もが一度は胸にするような苦い気持ちや辛い気持ちを包み込むラッキーの温かさ、全ての人におススメできる作品で、是非ともこの温かさに触れて欲しいです。
心が洗われます。

ラッキー―Are you LUCKY? (ビッグコミックス)

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