おれは

S、Mどっちかというと、Sである、そう自負していました。
しかし、そんな揺るぎないであろう事実を覆してしまうようなある事件が起こりました。
とある夏の日の夜長、おれはいつものように自分を慰めていました。
その日のネタはずばり動画でした。
ネットでいいネタをうまく拾ったようです。
しかし、そこにはいつもと違う風景が広がっていました。
いつもなら、留まることもなく、ただ通り過ぎるだけの風景です。
とある男子が、ベッドに寝かされた状態で紐で結ばれ身動きがとれない状態になっていました。
そして、その自由の利かない男子に対して、お姉さまがいいように好き勝手にニャンニャン、いやワンワンしてました。
そして、おれはヒヒーンといってしまいました。
そんなわけない、と思いました。
だって、この手のジャンルに自称Sのおれが踊らされるわけないじゃないですか。
しかし、踊ってしまったのは事実なんです。
ステップは最後まで軽やかでした。
なぜ、おれがこんな主導権も握れないような、動きを制限された男の映像を自分と重ねて楽しんでるんだと思いました。
そんな時、ふとある考えが頭をよぎりました。
そういえば、腰を痛めたために、おれにも短期間ではあるんですが身動きがとれない時があったじゃないですか。
その時のおれとこのベッドに縛られた男が、似たような状況にあると言ってもいいんじゃないでしょうか。
そのシンクロこそが、おれを動画に没頭させたんじゃないでしょうか。
そして、おれの中に新たな空間を生み出したわけです。
それはMの領域です。
しかし、その向かいにSの領域もあるのです。
おれはSでありながらMになりました。
そして、MでありながらSなんです。
体を打たれてもなお攻撃の手を緩めない、まるで格闘家です。
うん、おれは格闘家です。
そうしようと思いました。
おれは格闘家です。