孤独な戦い〜49日目の悲劇〜

あー、もう疲れた。マジで疲れた。昼飯なんて覚えてませんよ。何が疲れたって精神的に疲れきってしまいました。
今日は49日。
トイレで踏ん張りすぎたせいで、時間的にもギリギリでした。
急いで喪服に着替えて玄関に向かうんですが革靴がない。
急げと車のクラクションがおれを急かします。
焦ったおれは靴箱の下を探索すべく急にしゃがみ込みました。
その瞬間、大木を裂かんが如くの稲妻がおれのでん部を襲いました。
革靴は見つかったのですが、その代償は大きかった・・・
鏡の前に立ち、後ろを向いて下半身を見てみれば、そこから大胆に顔を覗かす恥じらいのアンダーウェア。
顔面から血の気が引いていくのを感じました。
外では車のクラクション、しかし、あの時確かにおれの時間は止まっていました。
おれは2着目のパンツを所持していない!
おれはその時一人きりで戦い抜く事を決心しました。
時間が再び動き出し、クラクションの音に気づいたおれはとりあえずガムテで応急措置をしました。
ただ、これだけではまだ弱いのでオシリの割れ目に布地をはさんで誤魔化すことにしました。
しかし、ケツに常に力を入れなければいけなかったので、まともに歩くことが出来ません。
まずは玄関から車までのわずかな距離ですが、これから訪れるであろう困難にも備え、なんとかこの場を誤魔化して歩こうと思いました。
そこで思いついたのが、さっきまでのトイレでの踏ん張りを利用するこにしました。
歩きながら腹を押さえ、さも気分が悪く歩きづらいようにカモフラージュしました。
手で腹を押さえてればそこに自然と目はいき、おケツに注目がいくことはないだろうという狙いもありました。
もちろん車に乗って、おれの第一声は「お腹痛い」です。
これによって、時間に遅れた事までも許されることが出来ます。
車に乗ってしまえば安全です。
佐賀のお寺に着くまでの約2時間、次なる戦いに向けてじっくりと作戦を練るのでした。
緊張が解けたのか、いつのまにか眠っていました。
しかし、安息の時間はそう長く続かず、あっという間にお寺に到着しました。
車の中で寝てた時間以外にずっと考えてた事は一つです。
それは焼香の時間をどう過ごすかです。
焼香をする時、立ち上がり、焼香台まで歩いていき、行為の後、席に戻って再び座らなければいけません。
おそらく、焼香はこの戦いの山場と言っていいでしょう。
結局の所、いい方法を思いつく事は出来ず、その時の己のテクニック(おケツのテクニック、略してケツテク)に賭けるしかないという事になりました。
お寺に入ると、既に親戚が予想以上に集まっていて、そこでまた血の気が引きました。
そして、おれは震えていました。
ビビッていたのか??いや、ちがう。
こんな大勢の前で絶対に失敗は許されない。
これから起こるであろう戦いを前に、おれは武者震いをしていたんだ!
親戚に挨拶することなく(する余裕なく)安全地帯であろう壁際に腹を押さえながら腰掛けました。
もちろんあぐらなんか組めません。
正座です。
正座なら立つ時も座る時もケツにはさんだままなんとかやり過ごす事が出来ます。
できればこの場所で法要をすませることが出来ればアウトコースから焼香台に向かう事ができ、人目にさらされる確率を下げることが出来ます。
それなのにあの叔父が、叔父のヤロウが、君らは前に座りなさいと。
「てめえの息子をそこに座らせりゃあいーだろーが!」と内心吼えたのですが、しょうがありませんでした。
で、空いてる席は一番前、なんてこった。叔父のバカヤロウ。
法要は進み、焼香の時間。
おれは集中して、立ち上がりました。
大丈夫、大丈夫と。
しかし、ケツテクがうまくいけばいくほど、それに比例するように歩き方が変になってしまうのです。
バレルよりマシだ!と気持ち悪く焼香台に向かうところ、思わぬ助け舟が。
もう誰の声かは覚えてません。「足が痺れてるの?」と。
やっと、おれに追い風が吹いてきました。いや、ホントの風に吹かれたらイヤですけど。
要するに足が痺れてまともに歩けないという事にすればいーんです!
そして、焼香は終わり、なんとか自分の席に戻ることが出来ました。
直に自分の後姿を見ることは出来ないわけですから、どうなってたのかはわかりません。
ただ、お経読んでるにも関わらず、後ろでぺちゃくちゃ喋るじじい共が、疑心暗鬼が強くなっているおれにとっては非常に気になるところでした。
こうして、無事(?)に戦いに終わりを告げました。
ただ、疑心暗鬼に満ちたおれの精神はズタボロで、ほとほと疲れ果てました。
これは悲劇なのか??喜劇なのか??釈迦のみぞ知る。
ブッダ オンリー ノウズ
ちょっと違いますか。
いや、たとえこれがバレてないとしてもですよ。悲劇ですよ。
ほんと終いには押さえてた腹は本気で痛くなってましたからね。
ほんと昼飯どころじゃなかったです。
でも傍から見れば、滑稽に足掻きまわるおれの姿は喜劇そのものかもしれないです。