ヤモリを

口にくわえたねこちゃんに遭遇。
家の近所のノラとは違って、人に馴れている様子のねこちゃんでした。
しかし、にも関わらず、おれはねこちゃんに近寄る事も出来ませんでした。
別にヤモリが苦手というわけではないんですがね。
ねこちゃんの口元から見えるヤモリの下半身が、諦めてなるものか!と必死に動いている様が、なんというか、ものすごく気持ち悪かったんです。
例え近付けたとして、もしかすると、ねこちゃんがヤモリを解放し、そのヤモリが「諦めてなるものか!」のベクトルを不意にこちらに向け、いきなり襲いかかってくる、なんて事もあり得ますよね。
そう考えると、もう動けませんでした。
すっかり木々の一部と化したおれ。
そんなおれに一瞥もくれることなく、ねこちゃんはヤモリをくわえたまま去っていくのでした。
きっとおれは、自分の無力さに苛まれ、眠れない夜を過ごす事になるのでしょう・・・。
秋風はいつも以上に肌寒く感じるのでした。